脳小血管病について知る
HRSVD ハースビッド
HTRA1 関連脳小血管病
HTRA1-Related Cerebral Small Vessel Disease
指定難病 123
HTRA1 関連脳小血管病は、病気に関わるHTRA1遺伝子の変化(病的バリアント)による常染色体潜性および顕性遺伝の脳小血管病です。
この疾患には、常染色体の両方に病的バリアントがあることで発症する潜性遺伝の
CARASIL *と、片方の染色体に病的バリアントがあり、顕性遺伝で症状があらわれる症候性保因者の病態が含まれます
17 。これらをあわせて「HTRA1 関連脳小血管病」と呼びます。
血管の障害により十分な血液が行きわたらなくなることで、さまざまな症状があらわれます。認知機能障害や歩行障害に加え、禿頭 や腰痛が特徴的な症状です。
CARASILと症候性保因者では、発症年齢や症状のあらわれ方、経過に違いがあります 4 。
- *CARASIL
- Cerebral Autosomal Recessive Arteriopathy with Subcortical Infarcts and Leukoencephalopathy
脳の検査(MRI)でみられる特徴
-診断の手がかり
HTRA1 関連脳小血管病では、頭の MRI で検出できる「chocolate chip sign」という所見が特徴的とされています。この変化は、磁化率強調像(susceptibility-weighted imaging: SWI)により検出が可能です。
MRI 画像は、下記の新潟大学脳研究所 HP をご参照ください。
新潟大学脳研究所_研究活動_研究成果・実績_2025 年 3 月 19 日_HTRA1 関連脳小血管病における新たな頭部 MRI 所見として「Chocolate Chip Sign」を同定
原因
- 病気に関わるHTRA1遺伝子の変化
Htra1タンパク質の正常な働き
- Htra1タンパク質は、血管の「メンテナンス係」です。
- 古くなったタンパク質を切り分ける「はさみ」のような酵素で、血管の壁をきれいに保ちます。
- この働きのおかげで、血管は柔らかく保たれ、血液がスムーズに流れます。
変化が起こるとどうなる?
Htra1タンパク質が正しく働かないと、血管にさまざまな問題が生じます 18 。
- タンパク質が分解されずにたまる
本来なら処理されるはずのものが、血管の壁に残ってしまいます。 - 血管の壁が厚く、硬くなる
柔らかさが失われ、血液の流れが悪くなります。 - 脳の小さな血管に負担がかかる
MRIでは「白い斑点(白質病変)」として映ることがあります。
病気の原因となるタイプ
Htra1タンパク質の働きが弱まる原因には、大きく分けて 2 つあります。
- 遺伝子の変化によるもの
生まれつきHtra1タンパク質の「設計図」に変化があり、酵素が正しく作られません。 - 遺伝子以外の要因によるもの
年齢や環境などの影響で、Htra1タンパク質の働きがだんだん弱まります。
病気の進み方と個人差
- 病気の進み方は人によって大きく異なります。発症しても、しばらくは、安定した生活を送れる方もいます。
疫学
| CARASIL | 症候性保因者 | |
|---|---|---|
| 患者数 | 日本で 10 人以下 2, 3 国内外で 33 人 4-8 | 不明 |
| 発症年齢 | 平均 29.5 歳(20〜40 歳) 4 | 平均 54.1 歳(29〜77 歳) 4 |
主な症状 4
| 症状 | CARASIL | 症候性保因者 |
|---|---|---|
| 若年期の禿頭 | 85.7% | 13.2% |
| 腰痛・脊椎症 | 100.0% | 60.0% |
| 歩行障害 | 92.6% | 67.4% |
| 認知機能障害 | 88.0% | 77.8% |
| 脳卒中 | 40.7% | 63.0% |
経過
| CARASIL | 症候性保因者 | |
|---|---|---|
| 疾患の進行 | 若年発症で比較的早期に進行 | 中年以降に発症し、 緩やかに進行 |
| 疾患の重症度 | 重症化しやすい | 比較的軽症から中等度 |
治療
根本的な治療法は確立していません。
現在の治療は、症状を和らげ、生活機能を維持する「対症療法」が中心です。
将来に向けた治療研究
カンデサルタンについて
要点(まず知ってほしいこと)
- カンデサルタンは、もともと高血圧の治療に使われるお薬です。
- HTRA1関連脳小血管病について、モデルマウスで有望な結果が報告されています。
- ヒトでの有効性は、まだ確認されていません。自己判断での内服開始や変更はしないでください。
いま、研究でわかっていること 19
Htra1タンパク質の働きが弱いマウスにカンデサルタンを投与すると、
- 血管の壁にたまる古いタンパク質が減った
- 血管の硬さが抑えられた
- 脳血流の低下が改善した
といった結果が得られました(動物実験の段階)。
※この結果がヒトにもそのまま当てはまるとは限りません。今後、ヒトで確かめる研究が必要です。
なぜ注目されているの?
- ドラッグリポジショニング(既存薬を新しい目的で使う発想)だからです。
- すでに広く使われているお薬のため、安全性情報が蓄積しており、実用化までの期間短縮が期待できます(ただし、HTRA1関連脳小血管病の患者さんでの有効性は未確認)。
患者さん・ご家族へのお願い
- 勝手に飲み始めたり、今の薬をカンデサルタンに替えないでください。必ず担当医にご相談ください。まだ研究段階の候補物質です。
- 当ポータルサイトでは、臨床研究・治験の情報を随時お知らせします。参加条件や連絡先もわかりやすく掲載します。
今後の見通し
- 研究チームは、患者さんでの効果と安全性を確かめるための検討を進めていきます。
- 新しい情報(臨床研究の開始、参加募集、結果の公表など)は、当サイトで継続的に更新します。
- 2025年10月
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- 新潟大学脳研究所
- 安藤 昭一朗