脳小血管病について知る

CADASIL カダシル

皮質下梗塞と白質脳症を伴う
常染色体顕(優性脳動脈症
(CADASIL)

Cerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarcts and Leukoencephalopathy

指定難病 124

CADASIL(カダシル) は、病気に関わるNOTCH3(ノッチスリー) 遺伝子の変化(病的バリアント)によって発症する、常染色体顕性遺伝の脳小血管病です。
主に脳の小さな血管の構造や機能が損なわれることで、脳卒中や認知症などが生じます。 以前は、20~30歳頃に片頭痛を、30~40歳頃に脳梗塞を、40~50歳頃に認知症を発症し、脳梗塞を繰り返すと 60歳前後で寝たきりとなることが多いと考えられてきました。
しかしながら、近年の研究の結果、発症年齢や病気の進行には個人差が非常に大きく、脳梗塞や認知症の発症が遅いケースが少なくないことが明らかになってきました。

脳の検査(MRI)でみられる特徴
― 診断の手がかり

CADASILでは、MRIで脳梗塞の結果として生じる空洞(ラクナ)や、白質病変と呼ばれるT2強調画像やFLAIR画像の高信号域が認められることが多く、これらが診断の手がかりになります。
特に、側頭極(そくとうきょく) と呼ばれる側頭葉前方の白質に高信号域が認められた場合、CADASILが疑われることが多いです。しかし、側頭極に病変が見られないCADASILの患者さんも多くいらっしゃいます。
また、MRIに比べてCT検査では、こうした変化を捉えるのが難しく、診断は困難です。

NOTCH3遺伝子
CADASIL患者さんの脳MRI画像

原因
-病気に関わるNOTCH3遺伝子の変化

ヒトには22対の常染色体と1対の性染色体があり、そのうち19番目の常染色体にNOTCH3遺伝子があります。
この遺伝子から作られるNotch3タンパク質は、主に血管の壁にある細胞に存在し、血管壁の正常な機能を保つ役割を担っています。

病気に関わるNOTCH3遺伝子に変化(病的バリアント)があると、Notch3タンパク質の構造が通常と異なるようになり、その結果、血管壁の機能が損なわれます。
これにより、脳内の細い血管が傷つき、さまざまな症状が引き起こされると考えられています。

CADASIL患者さんの脳MRI画像

CADASILの原因となる病的バリアントは、これまでに300種類以上報告されており、その多くはNotch3タンパク質の一部のアミノ酸が別のものに変化するものです。

この変化は、システインというアミノ酸が関わる「システイン置換の遺伝子の変化(バリアント)」と、それ以外の変化、つまり「非システイン置換のバリアント」に分けられます。

同じCADASILという病名であっても、持っているバリアントの種類によって発症年齢や病気の進行の仕方が大きく異なることがあります。
世界的にはシステイン置換のバリアントを持つ患者さんが多い一方で、日本では非システイン置換のバリアントを持つ患者さんも多く報告されています。

疫学

2023 年度末の特定医療費(指定難病)受給者数:259 人 1

しかし、国内では数万人以上の方が、病気に関わるNOTCH3遺伝子に変化(病的バリアント)があると見積もられています。

症状と個人差

CADASILという同じ病名であっても、病気に関わる遺伝子の変化(病的バリアント)の種類によって、発症年齢や病気の進行が大きく異なることがあります。
このような違いが、CADASILの症状に個人差がみられる原因のひとつと考えられています。

CADASILの症状と出現時期には
個人差があります
国立循環器病研究センターCADASIL外来通院中の
123人のデータ)

CADASILの症状 片頭痛・脳梗塞CADASILの症状 気分障害・脳出血
出血指向型 CADASIL
典型的なCADASILでは、脳出血を発症することは比較的稀です。しかし、NOTCH3遺伝子p.R75Pの変化(バリアント)を持つ人は、脳出血の発症が多いことが報告されています 15

2025年時点で、このバリアントは日本と韓国でのみ報告されており、病気の仕組みはまだ詳しくわかっていません。

典型的なCADASILの方では、側頭極と呼ばれる脳の部位にMRIの異常(白質病変)がみられることが多いのですが、p.R75Pバリアントを持つ方では、この側頭極に異常がみられないことが多く、診断が難しくなることがあります。

治療

CADASILに対する根本的な治療法は、2025年時点で確立していません。
しかし、高血圧や喫煙は CADASIL患者においても脳梗塞の発症と深く関連することがわかっており、禁煙や血圧のコントロールが脳梗塞の予防において、非常に重要と考えられます。

将来に向けた治療研究

日本では、CADASILの新薬開発に向けた研究が進められています。

試薬候補のひとつに核酸医薬があります。生物の遺伝情報を担う核酸という物質を利用する新しいタイプの医薬品です。現在使われている医薬品の大部分を占める低分子医薬や、がん治療などに用いられる抗体医薬とは作用のメカニズムが異なり、CADASILなどの希少疾患に対する新たな治療手段として期待されています。

もうひとつの新薬候補として、アドレノメデュリンがあります。アドレノメデュリンは循環器系の臓器で広く作られ、血管を拡張させたり、血管新生を促したりと、多彩な作用が知られており、CADASILに対しても有効であると期待されています 16


  • 2025年10月
    • 国立循環器病研究センター
    • 齊藤 聡